子どもも大人も、右肩上がりの直線ではなく、階段のように急成長と停滞を繰り返しながら成長していきます。
特に乳幼児期から青年期にかけての発達はめざましいものがあります。
しかし、成人期以降、もちろん老年期においても衰退の過程ととらえられるべきではありません。
「生涯発達」という考え方が広まってきています。
停滞期には何が起こっているのでしょうか。どんなふうに接したらいいのでしょうか。
この停滞期の謎は、分化と統合にヒミツがあるかもしれません。
当ブログでは、理学療法士と上級心理カウンセラーの資格を持つママが、各年代での停滞期を見つめていきたいと思います。
今回はその第5回「壮年期の停滞感」についてです。

この記事は、
✔ 壮年期のモヤモヤを解消したい
✔ ミッドライフ・クライシスについて知りたい
✔ 壮年期の怒りや暗い気持ちを和らげたい
そんな方に向けて作成しました。
ご自身の気持ちの整理、身近な人を理解するヒントになれていれば幸いです。
壮年期の特徴
壮年期における本来の発達課題は、子どもを育てることや、職場の後輩への指導、社会貢献などを通じて、自分の知識や価値を次の世代へ引き継ぐ「世代性」の獲得です。
壮年期を充実させるためには、関心のベクトルを「自分」から、「次の世代」や「周囲(家族、部下、社会)」といった自分の外の世界に向けていく必要があります。
エネルギーが自分自身にだけに向けられる状態が続くと、結果として停滞の心理状態に陥ります。
世代性のつまづき
壮年期に停滞感を感じる背景には、環境や心理的な変化が大きく影響しています。
世代性のつまづきとは、育成者という次のステージに移行できず、「自分がまだ主役(プレイヤー)でありたい」という執着から抜け出せていない状態です。
次世代への関心の薄れ
様々な要因で、後輩の育成や子育て、社会貢献に意識が向かない状態です。
自分のキャリアや生活を守ることに必死だったり、何事にもワクワクできず無気力であることも、次世代へ関心が向かない理由となります。ミッドライフ・クライシスとの関連も強いとされています。
ミッドライフ・クライシス
自分の老いへの恐怖や、体力や記憶力の低下、キャリアの限界が見えることで「自分の人生はこれでよかったのか」と強い焦りや不満感が増します。
また、過去を振り返り、統合する過程で「若い頃に諦めた夢」や「置いてきてしまった本当の願い」が、心の表面に浮かんでくることもあります。
自己没頭・自己陶酔
関心のすべてが「自分自身」に向いてしまうことで孤独感や虚しさが募ることがあります。
過去の栄光や自慢話が多すぎるということも、関心のベクトルを「自分」から「周囲」に向けることができていないという点で、世代性を獲得しているとは言えない状態です。
周囲に対して攻撃的になるパターン、塞ぎ込んでしまうパターンもあります。
関心の広がり
では、どのように世代性を獲得していくのか、2つの視点からみていきましょう。
「自分」から「私たち」へ
世代性が発揮されるとき、「大切にしたい」と思う範囲は、以下のように段階的に広がっていきます。
✔ 子ども・家族への関心:
自分の子どもを育てるだけでなく、家族の健康や、貯蓄等、次の世代にどんな家庭環境を残せるかというケア。
✔ 部下・後輩への関心:
自分がプレイヤーとして成果を上げる段階を卒業し、「この人たち(部下・次世代)が5年後、10年後に活躍できるように」と育てるケア。
✔ 地域や社会への関心:
自分が死んだ後も続く社会のために、ボランティア活動に参加したり、環境を良くしようとしたり、文化や技術を継承しようとするケア。
「見返りを求めない」という成熟
若い頃は、「これをしたら、自分にどんなメリットがあるか」というギブ&テイク(自己中心の視点)になりがちです。
しかし、世代性が発揮された関心は、自分が去った後の未来への投資になります。
自分が直接その報酬を受け取れなくても、「次の世代が豊かになるならそれでいい」と思える心の広さが、この時期の成熟の証です。
文化と統合
青年期(若い頃)の分化・統合が社会の中で個として自立するためのものだったのに対し、壮年期のそれは老いや限界を受け入れつつ、世界と深くつながるためのものへと変化します。
身体の変化
私たちは、これまで成長する身体の機能を自分の意志でコントロールし、一つの肉体として統合をすすめてきました。
壮年期では、体力、記憶力、健康など、これまですべて思い通りに動いていた身体の機能が衰え(分化・バラバラになり)、限界が見えてきます。
「衰え始めた今の肉体とどう付き合うか」を新しく受け入れ、調整していくプロセスに入ります。若さへの執着を手放し、等身大の自分の身体を愛し直す統合が行われます。
思考の変化
若い頃の思考の統合は、ロジックを磨き、正論や白黒をはっきりさせて「これが自分の意見だ」と確立することでした。
しかし、社会経験を積む中で、世の中には正論だけでは通らないことや、グレーゾーン、矛盾がたくさんあると気づきます(再分化)。
壮年期の思考は、正論で相手を論破する(若い頃の統合)手段に限ることなく、矛盾や理不尽をそのまま抱えながら最適な解を導き出す、より柔軟で複眼的な思考へと進化します。
人間関係の変化
学童期から青年期を通して、親から自立し、他者と自分を区別して「自分という個(アイデンティティ)」を社会の中に確立(分化・統合)させてきました。
壮年期では、「私は私、人は人」と強く区別していた境界線が、少し緩やかになります。
自分の利益や評価だけでなく、自分の未来=次の世代の未来として、他者の成長を自分のことのように喜べるようになります。
また、他者の未熟さや失敗も、自分事として捉えられるしなやかさを手に入れます。
自分という個の枠組みを超えて、部下や家族といった周囲の存在を自分の一部として包み込むような、より広い人間関係の再統合が起こります。
壮年停滞感の立ち上がり方
壮年期の停滞感は人生の行き止まりではなく、「自分の生き方やエネルギーを周囲にどう還元していくか」を再点検するための重要な人生の転換点です。
小さな「教える・伝える」を始める
周囲をサポートして「育てる喜び」に価値観をシフトさせてみます。
具体的には、職場の後輩へのアドバイス、自身のブログでのノウハウ発信など、身近な形で少しずつ次世代にバトンを渡す行動を試みるのが良いでしょう。
社会との接点を新しく作る
サードスペースが有効です。
家庭や会社のほかに、地域のボランティア活動、サークル、趣味のコミュニティなど、利害関係のない新しい場所に飛び込むと、役割を見つけられることがあります。
自己理解を深め、年齢を言い訳にしない
大人の発達課題は年齢に関係なく、何歳からでもやり直したり、軌道修正したりすることが可能です。
いちばん大切なこと
ここまで、壮年期の停滞感やミッドタイム・クライシスについてみつめてきました。
「世代性のつまずき」という言葉だけで片付けてしまうと、本人の努力不足や性格の問題のように見えてしまいますが、そうではないケースも多くあります。
実際には周囲にベクトルを向けたくても、物理的・精神的に、周囲にベクトルを向けられるわけがない過酷な状況に置かれている人がたくさんいるのです。
「自分の生存」だけで精一杯なケース
重なるケアの負担:
自分の親の介護だけでなく、配偶者の親の介護、場合によっては看取りをすることもあるでしょう。
同時に、子どもとの関係がうまくいかない時期までもが重なり悩む人が増えています。
自分自身の健康不安:
更年期障害や、生活習慣病、あるいは大病を患うなど、自分自身の心身の衰えや痛みに直面し、他者を思いやるエネルギーが底を突いている状態です。
「社会的・経済的な余裕」が奪われているケース
キャリアの頭打ちとプレッシャー:
役職定年や早期退職のプレッシャー、あるいは「若者についていけない」という強い焦燥感の中で、自分の雇用や立場を守るだけで必死にならざるを得ない環境があります。
経済的な不安:
親の医療費、子どもの養育費、自分たちの老後資金など、人生で最もお金がかかる時期であり、社会貢献(世代性)を考える精神的なゆとりが持てない現実があります。
「相談相手」がいなくなり孤立するケース
若い頃は親や先輩、友人が相談に乗ってくれましたが、壮年期になると自分が誰かの相談に乗る側(責任を背負う側)ばかりになるほか、死別や疎遠で自分の弱音を受け止めてくれる存在がいなくなってしまうことがあります。
誰にも「助けて」と言えず、心を病んでしまうケースがあります。
忘れないでほしいこと
ただでさえ人生の課題が山積みになる年代であることに加え、現代の日本社会を取り巻く環境や不透明なご時世が、壮年期の生きづらさをさらに複雑にしています。
その中で悩みながらも、現実を深く見つめようとされている姿勢そのものが、本当に素晴らしいことなのです。一人で抱え込まず、時には弱音を吐いて立ち止まりましょう。
家族や友人、同僚。難しければ、カウンセリングや専門機関。趣味のサークルや地域コミュニティの仲間達でもいいです。きれいな景色や思い出の場所に出向くことも素敵なことです。
好きな食べ物はなんでしょうか?好きな本はなんでしょうか?
ほんの少しの時間でも、肩の荷を下ろしゆっくり呼吸をする。
そんな時間が、心のエネルギーを少しずつ回復させてくれますよ。
誰か・何かをケアするときは、自分自身の心と身体の余裕が1番に満たされていることが大前提であり、自分自身が1番大切であることを決して忘れないでくださいね。
まとめ
いかがでしょうか。
壮年期停滞感とミッドライフ・クライシスには密接な関係性がありました。
世代性のつまづきには、当事者本人の悩みや苦しみが隠れていることが多々あります。
では、この記事の最重要事項を確認していきます。
✔ 壮年期の課題は、自分の知識や価値を次の世代へ引き継ぐ「世代性」の獲得である
✔ 老いや限界を受け入れつつ、世界と深くつながるための柔軟な思考を手に入れます
✔ 周囲にベクトルを向けられない理由は様々
✔ 自分自身の心と身体が1番大切であること
壮年期は過酷な時期です。
ですが、自分の好きなこと、好きなもの、好きな時間や場所。
大切なものを思い出し、大切なものを愛でる時間を手放してはいけません。
さて、当ブログでは「子どもにも大人にもある停滞期」をじっくり考えています。
次回は第6回「老年期の停滞感」についてみつめていきます。
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