子どもも大人も、右肩上がりの直線ではなく、階段のように急成長と停滞を繰り返しながら成長していきます。
特に乳幼児期から青年期にかけての発達はめざましいものがあります。
しかし、成人期以降、もちろん老年期においても衰退の過程ととらえられるべきではありません。
「生涯発達」という考え方が広まってきています。
停滞期には何が起こっているのでしょうか。どんなふうに接したらいいのでしょうか。
この停滞期の謎は、分化と統合にヒミツがあるかもしれません。
当ブログでは、理学療法士と上級心理カウンセラーの資格を持つママが、各年代での停滞期を見つめていきたいと思います。
今回はその第6回「老年期の停滞感」についてです。

この記事は、
✔ 老年期のモヤモヤを解消したい人
✔ 身近な高齢者の葛藤を理解したい人
✔ 老年的超越について知りたい人
そんな方々に向けて作成いたしました。
モヤモヤの解消や、身近な方を理解するヒントになっていれば幸いです。
老年期の停滞感
老年期の停滞感とは、一般的に高齢期(65歳以降)において、気力や体力、社会的な役割などが低下したり、生活に変化や刺激が乏しくなることなど、様々な要因で心身が停滞してしまう状態を指します。
役割の喪失(空の巣症候群・定年退職):
子育ての終了や仕事を退職したことで、「社会や家族から必要とされていない」という強い虚無感に襲われます。
心身の衰えへの直面:
体力や認知機能の低下を自覚し、自分の未来にポジティブな変化を期待できなくなります。
過去への後悔:
「あの時こうしていれば」という過去への執着から抜け出せず、現在の生活に意味を見出せなくなります。
クローズドライフ・クライシス(人生の閉塞期・危機)
人生が閉じていくような強い閉塞感や焦りに苛まれる精神的危機を指す言葉です。
「もう今から新しい人生はやり直せない」「残された時間が少ない」という選択肢の消滅(Closed)に対する恐怖が特徴です。
老年期における統合
老年期における「人生の統合(自我の統合)」は、一足飛びに達成されるものではありません。
多くの人が絶望と受容のあいだを何度も行き来する、不安定で長期的なプロセスをたどります。
そして、ここでの統合とは、後悔のない状態ではありません。
日本の高齢者を対象にした心理研究において、人生に納得している人の心の中にも、実はたくさんの後悔が含まれているという事実が明らかになっています。
私たちがイメージしがちな「あぁ、良い人生だった!」というポジティブな大団円だけが統合ではありません。
「失敗したし、未練もある。でも、それが自分だけの唯一無二の人生だったな」と、凸凹な過去を丸ごと包み込む受容の境地こそ、目指すべき最後の統合です。
老年的超越
私たちは若い頃からずっと、「何かを手に入れること」や「何かができるようになること」が素晴らしいと教えられて生きています。
しかし、老年期以降、「何も求めないこと」「執着を手放すこと」を新しい幸せの形と捉える理論をTornstam(トレンスタム)の老年的超越といいます。
Tornstamの老年的超越という考えのもと、3つの側面に対応する7つの因子と、
日本の高齢者を調査したことで新しく見つかった第8の因子「無為自然」で、
日本版老年的超越尺度(JapaneseGerotranscendence Scale:JGS/増井/2016 )が作成されました。
第8因子の無為自然は、考えない、無理しない、というあるがままの状態を受け入れる傾向であり、日本人の精神風土の特徴を反映したものとなっています。
「降伏」の安らぎ
衰えていく身体、できなくなること、過去の失敗という自分の力ではどうにもならない現実に対して、無駄にあらがうのをやめて白旗をあげること。
あらがうのをやめた瞬間、心は激しい葛藤から解放されます。
「わからない、気にならない」の自己受容
自分の力ではどうにもできない世の中のニュース、過去・現在・先の不安についてあれこれ悩む必要がないと、気にしても仕方のないことだと熟知しているのです。
人生には、楽しかったこと、愛した人、輝いていた瞬間が数えきれないほどあったはずです。
それら愛おしい過去のすべてに、静かに別れを告げています。
「何もいらない」という豊かさ
好きなものも、できることも、プライドも、すべてを削ぎ落として「空っぽ」である覚悟。
「あれが食べたい」「あそこに行きたい」という欲(執着)があると、それができない今の身体に苦しむことになります。
「何もいらない」と決めることで、手に入らない苦しみから自分を解放しているのです。
乗り越え方は自分で選べる
老年的超越の境地に立ち、「何も求めないこと」「執着を手放すこと」を幸せの形として受け入れることはとても素晴らしいことですが、みんなががんばって目指すゴールではありません。
老年的超越は、ただ毎日を一生懸命に生き、病気や別れなどの経験していく中で、心を守るために、自然とそういう考え方にシフトしたという、生き残るための結果のひとつです。
自身の内面と向き合い、「これまで自分はよくやってきた」と自分自身を認めてあげること。
孫の育児の手伝い、地域コミュニティでの社会貢献、後輩への助言など、自分の経験を「次の世代に手渡す」活動をすること。
現在のありのままの自分が関われる、新しい人間関係に一歩踏み出すこと。
ご自身で取り組むすべての行動が老年期停滞感を乗り越える第一歩です。
終活のすすめ
終活はこれまでの人生を振り返り、これからの「老い」や「死」への覚悟を決める(人生を統合する)ための、極めて強力なきっかけになります。
終活と聞くと、お葬式や財産の整理といった死んだ後の手続きをイメージしがちですが、
心理学的には残された時間をどう生きるか、自分自身と深く向き合う作業そのものです。
自分の人生のを肯定する作業
終活の代表的な取り組みであるエンディングノートの作成やアルバムの整理は、ライフレビュー(人生回顧)そのものです。
ノートに自分の生い立ちや、楽しかった思い出、苦しかった危機を書き出していくことで、「色々あったけれど、私は一所懸命生きてきたな」と、凸凹な過去のすべてを自分の枠の中に収める(自我の統合)ことができます。
エンディングノート作成やアルバム整理は、「自分の人生に自分でマルをつける」という作業
「執着」を少しずつ手放す練習になる
終活における生前整理(断捨離)は、物理的な片付けであると同時に、心の執着を削ぎ落とすトレーニングになります。
若い頃に集めたコレクションや、仕事の書類、たくさんの服などを手放していく過程で、高齢者は「もうこれらのモノ(地位や欲)は、今の私には必要ないな」と気づいていきます。
この「モノの手放し」が上手な人ほど、のちに身体機能が落ちて何もできなくなったときにも、「身体の自由もモノと同じ」と、比較的スムーズに次のステージへ移行していきます。
「自分はどう死にたいか」を決めることで、今が輝く
「もし自分が動けなくなったら、延命治療はどうするか」「最後は自宅がいいか、施設がいいか」という医療・ケアの希望を自分で決めておくことは、大きな覚悟を生みます。
死や衰えという未来の恐怖に対して、あらかじめ自分で「こうする」と決めておくことで、未来への正体のわからない不安が消え、心が穏やかに落ち着いていきます。
不安が消えるからこそ、「動けるうちに、あの人に会いに行こう」「美味しいものを食べておこう」と、今できる小さなことに集中して、心理的ウェルビーイングを高めることができるのです。
終活は元気なうちに始めるほうが良い
病気になってからだと、「治療はどうする」「お金はどうなる」「家族に迷惑がかかる」という目の前の現実的な負担が一気に押し寄せてきます。
そんな状態で、「これまでの人生を振り返って、自分と向き合う余裕があるか」と問われれば、それはだれしも必ず、NOと答えるでしょう。
病気になる前に少しずつ人生を整理しておくことが理想的なプロセスになります。
病気の前に整理しておくことは「心の貯金」になる
元気なうちに自分の人生を振り返ったり、不要なものを手放したり(生前整理)、もしもの時の希望を決めておくことは、未来への心の貯金になります。
病気の前に整理ができていると:
あらかじめ自分の人生の凸凹を受け入れ、ある程度の覚悟ができている状態です。
いざ大きな病気や衰えに直面したとき、ショックを受けつつも、「ついにその時が来たか。よし、じゃあ今できることをやろう」と受容や次への行動がスムーズになります。
病気になってから慌てて向き合うと:
「なぜ私がこんな病気に」「あの時もっと健康に気をつけていれば」という、病気や過去への未練が強くなり、嵐から抜け出しにくくなります。
そして、ひとつ申し上げるならば、自分と向き合うタイミングがどの瞬間であったとしても、
遅すぎるということは絶対にありません。
周りの人間ができる事
受け入れ、存在を肯定する
無理に励まさず、深い悲しみや怒りの感情をそのまま受け止めます。
「何もできなくても、あなたという存在そのものに価値がある」というメッセージは、失われた自尊心を心の奥底から支えます。
周りを頼る
この時期において、感情を受け入れ、存在を肯定することの難しさは計り知れません。
家族や友人、専門機関のスタッフ、地域のコミュニティなど、頼れるものはすべて頼ってください。
一番大切なのはあなた
ご本人様らしく穏やかに、安全に過ごせる環境があるならば、ほかに言うことはありません。
老年期の統合をすすめるにあたり、ご本人様のお気持ちの整理が何より大切です。
不安定な過程を経て、長い時間がかかる人生最後の大仕事です。
支える周りの皆様も、気を揉む日々となるでしょうが、皆様のお身体をまずは何よりも大切になさってください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
老年期における人生の統合(自我の統合)は、不安定で長期的なプロセスをたどります。
「辛かったことも、楽しかったことも、これが自分の人生だった」と受容の境地へ向かいます。
それでは、最重要事項を確認していきましょう。
✔ 人生に納得している人の心の中にも、実はたくさんの後悔が含まれている
✔ 凸凹な過去を丸ごと包み込む受容の境地こそ、目指すべき最後の統合である
✔ 自分と向き合うタイミングがどの瞬間であったとしても、遅すぎることはない
身近な高齢の方を、思い浮かべた方も多いのではないのでしょうか。
老年期は、人生における最後の統合が進んでいる時期です。
自分自身のすべてと向き合う辛さから、攻撃的になったり塞ぎ込むケースも珍しくありません。
見守る周りの方々にとっても困難な時期になるかもせれません。
ですが、1番大切なものはあなた自身であることを常に忘れないようにしてくださいね。
さて、別件ですが、老年的超越の考え方はとても神秘的だと感じました。
90歳を超え、こういった考え方をする方々が実際に一定数います。
別の記事で、もう少し深掘りしていきたいと考えています。
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